定年後再雇用の減給は違法?|同じ仕事で給料が下がるときの判断基準と対処法

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こんな悩みはありませんか?

  • 定年後に再雇用されたら、仕事は定年前とまったく同じなのに給料が半分になった
  • 「嘱託だから」「みんなそうだから」と説明され、納得できないまま契約書にサインしそうになっている
  • 再雇用を希望したのに、会社から「うちは再雇用しない」「1年だけ」と言われた
  • 賞与や手当が全部なくなった。どこまでが合法で、どこからが違法なのか知りたい

定年後の再雇用で給料が下がること自体は、法律で禁止されていません。ただし、仕事の内容や責任が定年前と同じなのに、基本給や手当を大幅に減らすことは、パートタイム・有期雇用労働法8条が禁止する「不合理な待遇差」にあたる可能性があります。2023年7月の最高裁判決(名古屋自動車学校事件)で、この問題の判断基準がはっきりしました。この記事では、定年後再雇用の減給がどこまで許されるのか、最高裁の判断枠組みと過去の判例をもとに整理し、再雇用の契約書にサインする前に会社へ確認すべき5点をまとめました。

結論:減給そのものは合法。ただし「仕事が同じなのに手当ゼロ」は争える

  • 会社は65歳までの雇用確保が義務(高年齢者雇用安定法9条)。再雇用は新しい労働契約なので、条件が変わること自体は認められている
  • ただし有期契約になった再雇用者と正社員の待遇差は、仕事内容・責任・配置転換の範囲・その他の事情を比べて「不合理」なら違法(パート有期法8条)
  • 最高裁は「定年前の6割を下回ったら違法」という一律の基準を否定した一方で、基本給・賞与の性質と目的を個別に検討するよう求めている
  • 精勤手当・時間外手当の割増率など、仕事の内容と関係のない手当のカットは「不合理」と判断されやすい(長澤運輸事件)

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定年後再雇用のルール|65歳までは会社に雇用確保の義務がある

まず、制度の土台を押さえます。高年齢者雇用安定法9条は、65歳未満の定年を定めている会社に対して、①定年の引き上げ、②継続雇用制度の導入、③定年の廃止のいずれかを義務づけています。そして、多くの会社が選んでいるのが②の継続雇用制度で、定年退職後に「嘱託」「シニア社員」などの名称で有期契約を結び直す再雇用がその代表です。

項目内容
65歳まで雇用確保措置が義務。希望者全員を対象にするのが原則(経過措置は2025年3月で終了)
70歳まで就業確保措置が努力義務(2021年4月〜)。再雇用のほか、業務委託や社会貢献事業への従事も選択肢
再雇用の労働条件定年前の契約は終了し、新しい契約を結ぶ。賃金・職務・勤務日数は労使の合意で決まる
再雇用の拒否就業規則の解雇事由・退職事由に該当する場合を除き、希望者を拒否することは原則できない

出典: 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(e-Gov法令検索)、厚生労働省「高年齢者雇用安定法の改正〜70歳までの就業機会確保〜」

つまり、「うちは再雇用しない」「希望しても1年だけ」という会社の説明は、それ自体が法律の要求を満たしていない可能性があります。反対に、条件を下げて再雇用すること自体は、法律が想定している運用です。つまり、問題は「どこまで下げていいのか」で、ここからが本題になります。

定年前と同じ仕事で減給|違法になるかの判断基準

そもそも再雇用後は有期契約になるため、正社員との待遇差にはパートタイム・有期雇用労働法8条が適用されます。この条文は、①業務の内容と責任の程度、②職務内容や配置の変更の範囲、③その他の事情を考慮して、待遇の違いが「不合理」であってはならないと定めています。ただし、定年後再雇用であることは③の「その他の事情」として考慮されますが、それだけで何をしても許されるわけではありません。

長澤運輸事件(最高裁 平成30年6月1日)が示した線引き

例えば、トラック運転手が定年後に再雇用され、仕事はまったく同じなのに年収が2〜3割下がった事案です。そこで最高裁は、賃金項目ごとに趣旨を検討するという方法を採り、次のように結論を分けました。

賃金項目最高裁の判断理由
基本給・能率給の減額不合理ではない定年後再雇用であること、退職金の支給、老齢厚生年金の受給が見込まれること、労使交渉を経て調整給が設けられたことなどを総合考慮
住宅手当・家族手当の不支給不合理ではない再雇用者は幅広い世代の生活費補助を目的とする手当の対象と異なる
精勤手当の不支給不合理皆勤を奨励する趣旨は正社員でも再雇用者でも変わらない
時間外手当の計算基礎の差不合理精勤手当を計算基礎に含めない扱いは、上記と同じ理由で不合理

要するに、生活保障的な手当や年功的な基本給は下げられても、「同じように働いていれば同じように払われるべき手当」を再雇用者だけ外すのは違法、というのがこの判決の考え方です。

名古屋自動車学校事件(最高裁 令和5年7月20日)|「6割基準」は否定された

次に、自動車学校の教習指導員が定年後に再雇用され、仕事も責任も定年前と同じなのに、基本給が定年前の6割以下(約16〜18万円→約7〜8万円)になった事案です。まず一審・二審は「定年前の6割を下回る部分は不合理」として差額の支払いを命じましたが、最高裁はこの判断を破棄し、審理をやり直すよう差し戻しました。

ポイント

最高裁が否定したのは「6割を下回ったら一律に違法」という考え方です。そのうえで、①正社員の基本給・賞与がどんな性質と目的で支払われているか(年功か、職務給か、勤続奨励か)、②再雇用者の基本給・賞与の性質と目的、③労使交渉の具体的な経緯、を丁寧に検討して不合理かどうかを判断するよう求めました。減給が許されるかどうかは「割合」ではなく「賃金の中身」で決まる、というのが現在の判断枠組みです。

差戻し後の名古屋高裁判決(2026年2月)については、判決文の一次情報を確認したうえで、この記事に追記します。一方で、現時点で確実に言えるのは、「仕事が同じなのに基本給が半分以下」というケースは、会社側が基本給の性質を説明できなければ争える余地が十分にある、ということです。

再雇用の契約書にサインする前に確認すべき5点

もちろん、争いになってからでは遅いので、契約前に確認できることを5つに絞りました。そして、ここでの確認結果が、後に「不合理かどうか」を判断する材料そのものになります。

  • ① 仕事の内容と責任は変わるのか:役職・担当業務・ノルマ・部下の有無。定年前と同じなら、その事実を書面(辞令・職務分担表・メール)で残す
  • ② 配置転換・転勤の範囲は変わるのか:正社員には転勤があり再雇用者にはない、という違いは減給の合理性を支える要素になる。逆に同じなら差の理由が薄くなる
  • ③ 減らされるのは何か:基本給か、賞与か、手当か。精勤手当・通勤手当・時間外の割増など「働き方に連動する手当」が消えていれば要注意
  • ④ 会社は減給の理由を説明できるか:「嘱託だから」は理由にならない。基本給の性質(年功給か職務給か)と、再雇用者の賃金体系の趣旨を尋ね、回答を記録する
  • ⑤ 労使交渉や説明の場があったか:労働組合との協議、説明会、個別面談の有無。最高裁は交渉の「経緯」を重視している

注意

パート有期法14条2項により、有期契約労働者は正社員との待遇差の内容と理由について会社に説明を求める権利があります。説明を求めたことを理由に不利益な扱いをすることも禁止されています(同条3項)。「なぜこの額なのか」を書面で聞くこと自体が、法律で守られた行動です。

納得できないときの対処手順

  • ステップ1:契約書と給与明細を保管し、定年前後の職務を比較表にする。同じ仕事であることを示す証拠が中心になる。記録の残し方は職場でのスマホ録音の手順も参考に
  • ステップ2:会社に待遇差の説明を書面で求める(パート有期法14条2項)。回答内容がそのまま争点になる
  • ステップ3:都道府県労働局の雇用環境・均等部(室)に相談する。パート有期法の紛争は労基署ではなく労働局が窓口。無料の助言・指導・調停が使える
  • ステップ4:労働審判・訴訟。不合理と判断された差額は損害賠償として請求できる。時効は3年が目安なので早めに動く

また、再雇用後の給料が下がった分は、雇用保険の高年齢雇用継続給付で一部補填できます。60歳以降の賃金が60歳時点の75%未満に下がった場合に支給されますが、2025年4月以降に60歳に達した人は給付率が最大10%(従来15%)に引き下げられています。したがって、減給を受け入れる場合でも、この給付の申請は忘れずに行ってください。

さらに、再雇用を理由にしない通常の減給については、給与カット・勝手に給料を下げられたときの対処法で整理しています。再雇用契約の「更新しない」と言われた場合は、有期契約の雇止めの問題として契約社員の雇止めは違法?が参考になります。

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まとめ|「割合」ではなく「賃金の中身」で判断される

この記事のポイント

  • 65歳までの雇用確保は会社の義務。再雇用は新契約なので減給自体は合法
  • 正社員との待遇差はパート有期法8条で判断。「定年後だから」は考慮要素の1つにすぎない
  • 長澤運輸事件:基本給の減額は不合理ではないが、精勤手当・時間外の計算基礎の差は不合理
  • 名古屋自動車学校事件:「6割基準」は否定。基本給・賞与の性質と目的、労使交渉の経緯で判断
  • 契約前に仕事内容・配置の範囲・減る項目・会社の説明・交渉の有無を確認し、説明は書面で求める

実際に、定年後の再雇用は、多くの人が「下がって当然」と受け入れてしまう場面です。しかし、法律は「同じ仕事なら同じ扱い」を原則にしています。だからこそ、サインする前に5点を確認し、説明を求めるところから始めてください。

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参考: 短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(e-Gov法令検索)。本記事の内容は2026年9月6日時点の法令・公表資料に基づく一般的な情報です。個別の事案については、労働基準監督署や弁護士・社会保険労務士にご相談ください。